睡眠中の口呼吸が歯に与える深刻な影響とは?歯科医が教える改善方法
- 2025年11月17日
- 予防歯科
睡眠中の口呼吸が引き起こす深刻な口腔トラブル
朝起きたとき、口の中がカラカラに乾いていたり、喉に違和感を感じたりすることはありませんか?
それは、睡眠中に無意識のうちに口呼吸をしている可能性があります。口呼吸は単なる癖だと思われがちですが、実は歯や歯茎、そして全身の健康に深刻な影響を及ぼす問題なのです。
本来、人間は鼻で呼吸するように設計されています。鼻には鼻毛や粘膜があり、空気中のウイルスや細菌、アレルゲンをフィルタリングする機能が備わっています。しかし、口呼吸ではこのフィルター機能が働かず、有害物質が直接体内に侵入してしまいます。
さらに、口呼吸によって口腔内が乾燥すると、唾液の持つ重要な働きが失われてしまいます。唾液には自浄作用、再石灰化作用、殺菌作用という3つの強力な役割があり、これらが虫歯や歯周病から歯を守っているのです。

口呼吸が歯に与える3つの深刻な影響
虫歯リスクの急激な上昇
口呼吸によって口腔内が乾燥すると、唾液が持つ「再石灰化作用」が失われます。
食事をすると口の中は酸性に傾き、歯のエナメル質が溶け始める「脱灰」という現象が起こります。通常、唾液がこの溶けかかったエナメル質を修復する「再石灰化」を行いますが、口呼吸で唾液が不足すると、この修復作用が追いつかず、虫歯が進行しやすくなってしまうのです。
実際に、口呼吸をしている人は鼻呼吸をしている人に比べて、口腔内のpHが低い状態(酸性)が続くことが研究で報告されています。この酸性の環境こそ、虫歯菌が活発に酸を作り出し、歯を溶かすのに最適な条件なのです。
歯周病の進行加速
口呼吸は歯周病のリスクも高めます。
唾液が減少すると、舌の表面や歯周ポケットに細菌が繁殖しやすくなります。特に上顎の前歯部分には「堤状隆起(テンションリッジ)」と呼ばれる特徴的な腫脹が現れることがあり、これは口呼吸による慢性的な炎症の兆候です。
研究によれば、口呼吸をしている人は鼻呼吸の人に比べて、歯周病の指標である歯周ポケットの深さが有意に大きいことが明らかになっています。歯周病が進行すると、歯を支える骨が溶け出し、最終的には歯を失う原因となってしまいます。
歯並びの悪化と顔貌の変化
口呼吸が癖になると、舌の位置が下がり、本来あるべき上顎の「スポット」と呼ばれる位置から離れてしまいます。
舌は通常、上顎の歯列内に収まっており、そこからの舌の圧力と唇の力、頬の粘膜からの圧力がバランスを取ることで、歯並びを正常な位置へと導いています。しかし、口呼吸によってこのバランスが崩れると、頬からの力により歯列が内側に押され狭くなり、その結果、歯並びが乱れてしまうのです。
さらに、常に口を開けていることで下顎が下へ下へと成長し、出っ歯や開咬といった不正咬合が生じるほか、顔つきも変わってきます。口を閉じようとすると下唇が拳上され、オトガイ筋に過度な緊張が起き、梅干し状の皺が現れることもあります。
口呼吸のセルフチェック方法
自分が無意識に口呼吸をしているかどうか、まずは以下のチェックリストで確認してみましょう。
- 朝、起きたときに口がカラカラに乾いている
- 日中、ぼーっとしているときに口が開いている
- 唇が荒れやすく、乾燥している
- 鼻が詰まりやすい、鼻で呼吸しづらい
- いびきをかきやすい
- 口臭が気になる
- 前歯が出ている、または歯並びが悪い
これらの項目に当てはまる数が多いほど、口呼吸が癖になっている可能性が高い状態です。
特に睡眠中の口呼吸は自分では気づきにくいため、家族やパートナーに確認してもらうことも有効です。朝起きたときに喉が痛い、声がかすれるといった症状も、睡眠中の口呼吸のサインかもしれません。
口呼吸の原因を理解する
鼻性口呼吸
アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)、鼻中隔湾曲、咽頭扁桃腫脹、口蓋扁桃やアデノイド肥大などによる鼻閉鎖が原因で発現します。
物理的に鼻呼吸がしにくい場合は、耳鼻咽喉科での治療が必要になることもあります。鼻の疾患を治療することで、自然と鼻呼吸に戻れるケースも多くあります。
歯性口呼吸
上顎あるいは上下顎前突、開口、叢生等による口唇の閉鎖不全が原因で発現します。
歯並びの問題が原因の場合は、矯正治療によって改善できる可能性があります。特に子どもの場合は、早期に矯正治療を開始することで、顎の成長を正しい方向に導くことができます。
習慣性口呼吸
日常的に口唇を離開させる癖により発現します。
現代では、硬い物を前歯で噛み切ることが少なくなり、またシャボン玉や口笛を吹く、風船ガムを膨らませるといった口遊びもあまりしなくなりました。つまり、昔と比べて口輪筋を鍛える機会が減っているため、口唇閉鎖力が低下しやすくなっているのです。

歯科医が教える口呼吸の改善方法
意識的な鼻呼吸の習慣化
まずは、日中に意識的に鼻呼吸を行うことから始めましょう。
単なる癖で口呼吸をしている場合、意識づけをするだけで改善することがあります。「口を閉じて鼻で息をしようね」とときどき自分に言い聞かせるだけでも効果があります。
鼻呼吸を意識的に行うことで、口が閉じる時間が長くなり、口周りの筋肉を鍛えることができます。特にデスクワークやスマートフォンを見ているときなど、無意識に口が開きやすい場面で意識することが重要です。
口周りのトレーニング「あいうべ体操」
口周りの筋肉を鍛える簡単な体操があります。
「あいうべ体操」は、以下の4つの動作を10回1セットとし、1日3セットを継続することで、口輪筋を鍛え、口呼吸を改善する効果が期待できます。声は出さなくても結構です。
- 「あー」と口を大きく開きます
- 「いー」と口を横に大きく開きます
- 「うー」と口をすぼめてできるだけ前に突き出します
- 「べー」と舌をできるだけ下へ伸ばします
この体操は、口唇閉鎖力を高めるだけでなく、舌の位置を正しい位置に戻す効果もあります。継続することで、自然と鼻呼吸ができるようになっていきます。
睡眠中の対策
睡眠中は無意識のうちに口呼吸になりやすいため、特別な対策が必要です。
市販の「鼻呼吸テープ」を口に貼って寝ることで、強制的に鼻呼吸へと移行させることができます。また、「鼻腔拡張テープ」を使用することで、鼻の通りを良くし、鼻呼吸をしやすくする方法もあります。
ただし、これらのテープは一時的な対策であり、根本的な原因を解決することが重要です。鼻づまりがある場合は耳鼻咽喉科を受診し、歯並びの問題がある場合は歯科医院で相談することをお勧めします。
歯科医院でのMFT(口腔筋機能療法)
歯科医院では、歯科衛生士による口輪筋のトレーニング「MFT(口腔筋機能療法)」を受けることができます。
MFTでは、舌先を上顎の「スポット」にあてたまま唾液を飲み込む練習など、段階的なメニューを通して舌の位置を正すほか、マウスピース型の口腔筋機能トレーナーを用いることもあります。
特に子どもの場合は、マイオブレースというシリコン製のマウスピースを使った矯正治療も効果的です。毎日、日中の1時間と就寝中にマウスピースを装着することで、口周りの筋肉を鍛え、歯並びの改善と同時に口呼吸の改善も期待できます。

口呼吸が全身に与える影響
口呼吸の影響は、口腔内だけにとどまりません。
睡眠時無呼吸症候群のリスクが高まることも重要な問題です。口を開けたままの状態で寝ていると、下顎や舌が重力に逆らえずに下がってしまい、気道を圧迫してしまいます。結果的に息ができなくなり、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす原因になるのです。
また、1回の呼吸で取り込める酸素の量を比較すると、口呼吸は鼻呼吸よりも少ないことがわかっています。仮に1日に同じ数の呼吸をした場合、口呼吸をする人は鼻呼吸をする人よりも脳に酸素が行き届かせられません。これにより、集中力や代謝が低下するといった問題が生じやすくなります。
さらに、風邪やアレルギーになりやすくなる点にも注意が必要です。口呼吸をすると、空気中に漂っているウイルスや病原菌が直接器官に侵入し、風邪やアレルギーを発症しやすくなります。一方、鼻は粘膜や鼻毛がフィルターの役目を果たしますから、鼻呼吸への移行で感染症のリスクを抑えられます。
まとめ:健康な歯と体を守るために
睡眠中の口呼吸は、虫歯や歯周病のリスクを高めるだけでなく、歯並びの悪化、顔貌の変化、睡眠時無呼吸症候群、免疫力の低下など、全身の健康に深刻な影響を及ぼします。
しかし、適切な対策を行うことで、口呼吸は改善できます。まずは自分が口呼吸をしているかどうかをセルフチェックし、意識的な鼻呼吸の習慣化、口周りのトレーニング、睡眠中の対策などを実践してみましょう。
もし、鼻づまりや歯並びの問題が原因で口呼吸になっている場合は、専門医による治療が必要です。耳鼻咽喉科や歯科医院で相談することで、根本的な原因を解決し、健康な鼻呼吸を取り戻すことができます。
赤坂ONO Dental Clinicでは、口呼吸による口腔トラブルの診断から治療まで、患者様一人ひとりに合わせた丁寧なカウンセリングと治療を提供しています。口腔内カメラを使用した詳細な検査と、最新機器を導入した精密治療により、口呼吸が原因で起こる虫歯や歯周病、歯並びの問題に対応いたします。
平日は22時まで、土日も18時まで診療しており、赤坂駅から徒歩1分という好立地で通院しやすい環境を整えています。口呼吸や口腔内の乾燥、歯並びの問題でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
詳細はこちら:赤坂ONO Dental Clinic
監修者プロフィール
院長 小野 雄大(おの たけひろ)先生

略歴
– 2015年3月:岩手医科大学 歯科医師臨床研修 修了
– 医療法人(秋田)、岩手医科大学放射線科、神奈川県内医療法人などで幅広く勤務
– 2024年2月:赤坂ONO Dental Clinic 開業
診療スタンス
– 丁寧なカウンセリングを重視し、口腔内写真やレントゲンを用いて現在の状態をしっかり説明
– 患者さまに治療内容のメリット・デメリットを理解していただいた上で選択してもらう治療方針を実践
– 自身も歯科治療の経験があることから、「患者さまに寄り添う治療」を大切にしている

